私の住宅に対する考え方 サスティナブル+外断熱住宅

 

■サスティナブル・ハウス

 「サスティナブル」 Sustainableという考え方は、1987年国連の「環境と開発に関する世界委員会」の報告書において「持続可能な開発」(Sustainable Development)という概念が提唱された頃からだと思われます。

 わが国の住宅事情を見ると、明治・大正および戦前に造られた住宅は、ほとんど残っていません。戦後の復興から今日に至るまで、あいも変らず Scrap and Buildの考え方が支配的であり、住宅の平均寿命は、30年という報告が建設省白書でなされています。それに対して、欧米では何百年の石造の住宅は別にして、木造の住宅においてもその寿命は80年から100年超とのことです。

 最近になってようやく住宅の供給過剰の現象と社会資本の充実という観点から、また、環境・省エネ・産廃が主要なテーマになっているので、「長期優良住宅」という言い方で、要はサスティナブルハウスを目指す目的で、税金や融資を有利にするという法令や省エネの基準等の改定が行われました。しかし、まだまだ一般市民だけでなく設計者や開発者(デベロッパ)の意識も遅れているというのが現状です。実際には、欧米のように3世代100年「長持ちする住宅」は、ほとんど造られておりません。長持ちするという意味は、単に構造的・耐震的に丈夫であるというだけでなく、設備の配管が遣り替えられるとか、将来的に間取りの変更が出来るとかということも含まれなければならないのですが、その本質は「資産価値」が持続するということです。

 

■外断熱住宅

 それと同時に「住宅」は暑い夏でも寒い冬でも快適で住み易く、健康的な住まいでなければなりません。日本の住宅はそういう意味でも断熱・結露・カビの対策や温度・湿度の管理はおろそかにされてきました。それらの問題を解決するもっとも優れたというより唯一の方法が「外断熱工法」であることが、最近になって明らかになってきました。

 

■デザイン

 本来、英語の"Design"は、日本語の「デザイン」より幅広い意味があり、ただ単に建築意匠についての言葉ではありません。建物がサスティナブルであること、人間にとっても建物にとっても健康的な住まいである、ということもデザインと言っても良いのです。逆にデザインのためのデザインはあまり意味がなく、独りよがりのデザインは全く意味がありません。一方、意匠的なデザイン(外観・内観とも)も資産価値を持続させる大きな要素であることも事実です。建物を長持ちさせる最大の要素ともいえるものです。 

 

■コスト

 ハウスとか住宅とかいう言葉を使いましたが、ここに述べた考え方は戸建住宅だけでなく、分譲マンションでも賃貸マンションでも同じです。ホテルでも同じです。病院や老人福祉施設でも同じです。

 外断熱の良さを説明する本はいくらでも発行されています。どの本にも外断熱はすばらしいと書いてありますが、同時にコストも高いと書かれています。それでもライフサイクルコスト(LifeCycleCost) という長い目で見れば十分元は取れるという説明です。しかし、その説明とその発想では、いつまで経っても外断熱の建物は普及しません。必ず投資金額が問題になるのです。わが国では当初の建設コストが高くなるのであれば、何を言っても始まらないのです。今日のような厳しい経済状勢下ではなおさらです。 

 

■事業計画と設計

 コストの問題を如何にして解決するかということは、どの本にも書かれていません。外断熱のコストについては、面積当りの単価の問題としてしか捉えられていませんが、実は単価の問題ではありません。

 賃貸マンションの場合は、設計は工事費と家賃とを前提とした事業計画から始めなければなりません。立地条件も重要です。その条件の中で合理的で経済的な設計をすることがポイントです。設計(Design)をデザインと機能(性能)とコストという観点で総合的にとらえれば、外断熱を採用しても安く造ることは可能です。

 

 

私が影響を受けた二人の建築家

 

私は建築および住宅に対する考え方において、二人の建築家に影響を受けました。

 

戸谷英世氏

1940生、名古屋工業大学建築科卒業後、建設省に入省、建築研究所企画調査課長他要職を経て独立。現在は住宅生産性研究会(HICPM)理事長。建築に関わる多岐にわたる研究と極めて高度な知識と見識をもって、多くの著作を上梓し、粘り強い啓蒙活動を続けておられます。日本の住宅政策についても、鋭い批判を数多くされています。戸谷氏は建築家というより、思想家であり、啓蒙家というべきかと思います。いまだにフルマラソンを走っておられるとのことです。

 

磯村文雄氏

1945年生, 2013年没, 享年68才 名古屋工業大学建築科卒、株式会社ISO設計代表取締役。私が約5年間勤めた建築設計事務所の主宰者。建築・土木の構造家としてのスタートでしたが、事務所を開設。建築家としてあらゆる種類の建築物を数多く設計されました。建築に対する慣例的常識を打ち破り、大胆な解決法を提示されることで知る人ぞ知る存在でした。特に、建築設計におけるあらゆる意味での合理性の追求は、結果として経済性への追求でもありますが、その基は構造の合理性あるいは美しさの追求に通じるものがあると思われます。私の設計に対する考え方の多くは、磯村氏から学びました。